2024年6月、日本国会で改正された入管難民法・技能実習適正化法が、今後の外国人労働者の権利保護と育成を見据えた大きな一歩となりました。この改正は、1993年に導入された「技能実習制度」に代わる新たな制度、「育成就労制度」を3年以内に導入することを目指しています。この新制度は、従来の制度の欠点を解消し、日本にとって不可欠な外国人労働者をより良い環境で受け入れることを目的としています。

育成就労制度の目指す方向

日本は、少子高齢化が進み、深刻な人手不足に直面しています。そのため、外国人労働者の確保は日本の産業を支えるために重要です。新たに導入される育成就労制度は、外国人にとって「魅力的な選択肢」となることを目指しており、給与や待遇面での改善が求められています。また、来日時に発生する高額な費用負担の適正化も制度の重要なポイントです。外国人が安心して働き、生活できる環境を整えることが、日本が外国人から「選ばれる国」になるためのカギとなるでしょう。

技能実習制度は、当初の目的である「母国での活躍を支援する」という理念を掲げていましたが、現実的にはさまざまな問題が浮上しました。賃金の未払い、労働条件の過酷さ、暴力事件などが報道され、制度の実態はその理想とはかけ離れていました。このような「暗部」に対処し、新制度での改善が求められています。

技能実習生の高額費用負担問題

技能実習制度の大きな問題の一つに、技能実習生が負担する高額な費用があります。外国から来る労働者は、来日するために多額の費用を借金して支払うケースが多く、その返済に苦しむことがあります。特に、実習先での給与が低いため、母国への仕送りや借金返済が難しく、高収入を求めて実習先から失踪する問題が発生していました。失踪者の数は2022年には9006人に上り、法務省の発表によれば2023年末時点で技能実習生は40万4556人とされています。

この失踪問題の背景には、技能実習生が負担する高額費用があります。外国人労働者は、来日前に送り出し機関や仲介者に多額の費用を支払っています。法務省の調査によると、技能実習生が支払う費用は平均54万2311円で、特にベトナムの実習生は68万8143円という高額な負担をしています。これにより、多くの実習生が借金を抱え、その返済に苦しむことが明らかになっています。

送り出し機関と仲介者の関与

技能実習生が負担する高額な費用は、送り出し機関や仲介者の存在が一因となっています。例えば、ベトナムでは200を超える送り出し機関が存在し、それぞれが異なる金額を請求しています。これにより、実習生たちは時に百万円を超える金額を支払わなければならず、その負担は非常に大きいものとなっています。

こうした問題に対処するためには、送り出し機関や仲介者の役割を透明化し、実態を把握することが重要です。さらに、現地の政府や公的機関の関与が不可欠であり、これにより費用の適正化が進むことが期待されます。実際、インドネシア政府は、日本に送り出される技能実習生の費用負担を軽減するための取り組みを進めています。2022年には、インドネシア政府と日本側の監理団体が協力し、技能実習生の負担額を5万円程度にまで減らす試みが始まりました。この取り組みにより、インドネシアの実習生400人が恩恵を受け、失踪者は1人も出ていないという成果を上げています。

育成就労制度への期待

日本政府が新たに導入しようとしている育成就労制度は、外国人労働者にとって魅力的な制度として広く知られることが求められています。そのためには、給与や労働条件の改善だけでなく、来日時にかかる高額な費用負担の軽減も重要です。特に、送り出し機関や仲介者が関与する費用の透明化と適正化が必要です。

また、現地の政府や公的機関との連携が不可欠です。例えば、インドネシア政府との協力により、実習生の費用負担を大幅に軽減する取り組みが始まりました。このような試みが他の国にも広がり、ベトナムやフィリピン、カンボジアなどの国々でも実施されることが期待されています。

日本の課題と今後の展望

しかし、日本が外国人労働者にとって「選ばれる国」になるためには、まだ多くの課題が残されています。円安の影響や、日本経済の国際的な存在感の低下が、外国人労働者にとって日本を選ぶ魅力を減少させる要因となっています。さらに、アジアの若者たちは、オーストラリアやカナダなど、他の国々に目を向ける傾向が強まっています。このような中で、日本が競争力を持ち続けるためには、経済的な指標だけでなく、日本文化の魅力も積極的に発信する必要があります。

日本のアニメや漫画は、外国人にとっての大きな魅力であり、日本で働くことへの憧れを抱かせる要素の一つです。日本が他国を上回る魅力を発信し、外国人に「選ばれる国」になるためには、政府や関係者が積極的に取り組み、外国人労働者にとって働きやすい環境を整えることが必要です。

まとめ

日本の育成就労制度の導入は、今後の外国人労働者の確保と育成に向けた重要な一歩です。しかし、実際に外国人が日本を選ぶかどうかは、今後の取り組みにかかっています。高額な費用負担の適正化、待遇の改善、そして外国人が安心して働ける環境づくりが進むことで、日本は他国に負けない魅力的な労働市場となるでしょう。